会議後、ルートヴィッヒさんに誘われて食事に来たは良いものの、先程からルートヴィッヒさんは一言も話してはくださらない。
ひたすらに皿の上のじゃがいもを真剣な表情で丹念に潰している。
これじゃあ久しぶりに会えて、期待した私が馬鹿みたいじゃあないですか。
心の中で年甲斐も無く不貞腐れながら、ルートヴィッヒさんに倣ってじゃがいもを潰していると、ガチャンという一際大きな音が聞こえた。
驚いて向かいの席を見てみると、白いテーブルクロスにじわりと広がるワインのシミと、コロコロと転がる空になったワイングラス。
何が起こったのか分からずに呆けていると、転がったワイングラスが私の皿に当たり、カチンと小さな音を立てた。
「っ本田!すまん、大丈夫か?」
ルートヴィッヒさんが慌ててワイングラスを取り上げたて尋ねたが、私が反応しないのを見てさらに焦った表情で、まさか服を汚してしまったかと、腰を浮かせたので、今度は私が慌てて大丈夫ですと声を上げた。
「どこも汚れてませんよ。大丈夫です」
「良かった。・・・すまない」
「いえいえ、店員さんに新しいワインを頼みましょう」
「ああ・・・」

新しいワインが運ばれてきても、ルートヴィッヒさんは食事に手をつけようとしなかった。
先程まであれほど真剣に潰していたじゃがいもも放ったらかしにしている。何か悩み事でもあるのでしょうか?
「ルートヴィッヒさん。何か悩み事でもあるのでは?」
「・・・・・」
「私で良ければ相談にのります」
「・・・・・」
「場所が不味ければ違う場所にでも・・・」
私が何度か声を掛けても、ルートヴィッヒさんは真剣な表情で新しく運ばれてきたワイングラスを見つめているだけで答えてくれなかった。

・・・もしかして別れ話でもされるのでしょうか。

いっそ悲しい気持ちになって、明るかった気持ちがどんどんと暗くなっていくのを感じていると、ルートヴィッヒさんらしくない小さな声が聞こえた。
「・・・緊張しているんだ」
「・・・へ?」
私は何を言われたか分からず、間抜けな声を出してしまった。
すると、ルートヴィッヒさんは堰が切れた様に一気に捲し立て始めた。
「本田に久しぶりに会うと、フェリシアーノに話したら、何処か食事にでも連れて行ってやれ、美味しい所を教えてやると、言われたんだ。しかし、いざ、こういった畏まった場所に来ると何を話せばいいか分からない・・・。俺は元々口が上手い方では無いし、本田も退屈ではないだろうかと・・・・本田?」
あまりにルートヴィッヒさんが真剣にそんな事を言うものだから、私は可笑しくてついつい吹き出してしまった。
「ふっ、ふふ。すみません」
それでずっと黙っていたんですかと、尋ねれば、ルートヴィッヒさんは申し訳なさそうな表情で、何を話すべきか考えていたのだと言う。
その言葉にまた私が笑うと、そんなに笑うなとルートヴィッヒさんが少し拗ねた。



真面目に恋をする男は、恋人の前では困惑し、拙劣であり、愛嬌もろくに無いものである。