錆びた白い扉を押すと、眩しい光が射して目を細めた。
ここ一週間、厚い雲が太陽を遮っていたので、こんなにからっと晴れた気持ちのいい青い空は久しぶりだった。
手の平で日よけを作って空を見上げながら、気持ちいいなぁと、意味もなく笑ってみる。授業中の屋上には、当たり前だけど誰もいない。
グラウンドからはサッカーをしている生徒の掛け声が小さく聞こえてくる。
声を出しながら走る生徒を見下ろして、さぼっちゃったと呟く。悪いことしてるなぁと、感慨深くなり、僕はもう一度、ふふっと笑った。
その時、カシャンと金属が擦れるみたいな音がした。振り返りながら、気のせいかなぁとも思ったけれど、気になって音がした方へそろりと歩み寄って、僕の立っていたフェンスの側からは見えなかった、入り口横のコンクリート壁を見下ろす。
見えたのは真っ黒くて、小さな頭のつむじ。
「本田くんだ…」
同じクラスの本田菊くん。
運動はちょっと苦手みたいだけど(だって持久走では毎回、後ろの方を走ってる)、勉強もできて、たくさんの友達に囲まれて、いつも困ったように笑ってる。
優等生と呼ばれてる本田くんがどうしてここに?しゃがんで、壁にもたれて座る本田くんを覗き込む。
髪と同じ真っ黒な瞳は閉じられて、肩がゆっくりと上下して、見た通り眠っているみたいだった。手元を見ると、さっきの音の元らしい携帯電話が転がっていて、そこに繋がれたイヤホンから小さな音が洩れていた。
「…本田くん」
ポツリと名前を呼んでみるけど、本田くんは何も言わない。寝てるんだから当たり前なんだけど、あの見た目に反した低めの声が返ってこないのは、何だかすごく気に入らない。
それにも増して嫌なのは、あの真っ黒な瞳が見えないことだ。
僕はあの瞳が好きだった。
茫然とした、捕え所の無い真っ直ぐな瞳の中に映る景色を思い浮かべて、心臓が跳ねるのを感じる。それと同時に、猛烈にあの目線が欲しくてたまらなくなった。
いくら見詰めても本田くんは起きる気配はない。手を伸ばして、指でゆっくりと瞼を撫でる。むっと眉が寄せられたけれど、それだけだった。そのまま指を滑らせて、すっと通った鼻筋をなぞり、指は唇で止まった。軽く押して、柔らかいなぁ、なんて当たり前の感想に目を細める。
「…ねぇ、怒らないでね」
返事はなかったけど、そのまま僕は本田くんの唇にゆっくりと口づけた。口づけたまま、じっと本田くんを観察する。
穏やかだった眉が息苦しさからか、じわじわと歪められていき、ふるりと睫毛が震えた。僕はそれを合図に、本田くんに口づけるのをやめる。その瞬間をわくわくして待つ。餌を前にした飼い犬みたいに。
もう一度睫毛が震えて、あの真っ黒な瞳が少しずつ見えた。黒い硝子玉みたいな瞳の中の僕が微笑んでいる。
「やぁ、やっと会えたね」
グラウンドから、甲高い笛の音が響いた。
リクエスト:設定は学パロで露か米か英が日に純愛片思いしていて、不良優等生の本田くんがサボりかなんかで寝ている隙を狙ってチューしちゃうシュチュエーション